第九章 正義と、確固たる悪

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 その部屋は、窓が開いているのではなかった。窓ガラス自体、無かったのだ。不用心だと思いつつなかに入ると、辺り一面真っ黒に焦げている。 眉をひそめた。 (火事があった、ってこと? そういえば、ナントカ少将が焼身自殺したって言ってたっけ)  小毬は辺りを探るように見回したあと、執務机と思しき木製の机の前に立った。おもむろに引き出しをあけ、中を探っていく。いくつか引き出しを漁っていると、意外にあっさり、目当てのものを見つけた。  この建物の見取り図だ。  それを机の上に広げ、月明かりで照らすようにして眺める。  どうやらこの建物こそが新人種特殊軍の根拠地であり、右隣りに併設しているのが新人種研究所のようだ。その二つは渡り廊下で繋がっている。  小毬は、これから向かう部屋を指で撫でた。見取り図をポケットに押し込むと、入ってきた窓から外に出る。 そして、目的の部屋である――飯嶋大門元帥の執務室へと向かった。  その執務室は、忍び込んだ部屋から正反対に位置する建物の、最上階にあった。  見取り図を見る限り、政府の人間や軍人、研究員が寝泊まりする宿舎は、あの朱塗り門があった四角い建物らしい。だが、個人の執務室を持つほどに地位ある者は、執務室の傍に寝室を持っているようだ。仮に今日の執務が終わっていたとしても、飯嶋は執務室に隣接する寝室にいるだろう。     
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