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飯嶋の部屋の窓からは、明かりが漏れていた。壁をよじ登り、窓から飯嶋の執務室を覗き込む。
老齢の男が、窓に背を向けて背もたれつきの椅子に座っている。執務机に肘をつき、書類を読んでいるようだ。ほかには誰もいない。
(こいつが、飯嶋)
新人種殲滅作戦の決行を決定した、新人種関連の最高責任者。
そう思うと怒りで目の前がくらくらして、歯を食いしばった。居てもたってもいられず、窓を割って飯嶋の執務室へ侵入する。飯嶋が何事かと振り返ると同時に後ろから羽交い絞めにして、彼の首を掴んだ。喉仏が手のひらのしたで上下するのがわかった。
コンコン、とドアを叩く音がした。
「閣下、何かございましたでしょうか」
男の声だ。小毬は飯嶋の耳元で、「なんでもないと言え。それから、人払いをしろ」と命じる。
「なんでもないよ。これから来客が来るんだ。聞かれたくない話をするから、きみたちはもう休んでいいよ」
飯嶋が、ドアに向かって声を張り上げる。
「はっ、しかし見張りの仕事は――」
「いいってば。誰に狙われるわけでもないし。さ、帰った帰った」
「……はい、では失礼致します」
ドアの外で、足音が離れていく。人の気配も消え、小毬は胸中で安堵の息をついた。
「で。きみは誰で、私になんの用かな」
「お前を殺しにきた」
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