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そう告げると同時に、掴んだ首に力を加える。ぐ、と飯嶋の喉から奇妙な音が漏れた。飯嶋は首をひねって逃れようとするが、小毬は手を放さなかった。
「そ、れで? きみは、誰なの?」
「こんなときなのに、余裕だね」
「私を殺した相手もわからないんじゃ、死んでも死にきれないなぁ」
「誰だっていい」
「ああ、誠ちゃんが言ってた新人種に洗脳された女の子か」
息を呑む。
飯嶋は首を掴んでいる小毬の手を外そうとしたが、力で敵わないと知ると潔く諦め、冗談めかして肩をすくめて見せた。
「ここは三階だよ。どうやって入ってきたの? それに、随分と力が強いんだね、きみ。小毬ちゃんだっけ」
小毬は何も答えない。
「ここに来たのは新人種を殲滅したことに対する復讐ってとこかな。私を殺して何になるんだい? 死んだ者は生き返らないよ」
「私がしたいからするの」
新人種殲滅の決定を下したのは、この飯嶋だという。トワは「善悪、どちらもその反面を抱えている」と言った。新人種を滅ぼしたことは、ヒトにとって善なのかもしれない。けれど、そんな理屈なんてどうでもよかった。ヒトすべてが悪だとは言わない。けれど、新人種を殺害する決定を下し、指示をしたトップの人間である飯嶋がのうのうと生きているなんて、納得ができなかった。
小毬が漠然と抱えていた、行き場のない焦燥感と怒り。
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