第九章 正義と、確固たる悪

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「芳賀魔巌二が行ったことを、過去だと切り捨てるのは簡単だ。けれど、過去は過去だが、変えられない不動なものでもある。きみの言うように、私は上の人間だ。選ぶべき二択のどちらとも悪でも、どちらとも正義でも、選ばなければならない。私は私の正義で新人種を殲滅する許可をだした」 「あなたの正義のために、彼らは殺されたんだね」 「きみの正義のために、私は殺されようとしている。違うかね?」 「……違う。これは正義じゃない」  小毬の我侭。小毬が勝手にしていること。  何が正しく、何が悪か。それは各々によって異なり、必ずしも統一されていない。けれど、今から小毬がすることは「悪」なのだろう。  どんな理由があろうと、加害者だけにはなりたくなかった。  加害者になってしまえば、小毬のなかの大切な部分が壊れてしまう気がした。 (――それでも) 「早く出て行ってくれないかな。このあと約束があるんだ」 「お前を殺しにきたと言ったはず」 「だったら早くしなよ。迷ってるの?」  そう言って、飯嶋は笑った。  手に力を込める。飯嶋の首に親指がめり込んだ。皮膚よりも温かなぬくもりと脈のようなものを指先に感じ、とっさに手を緩める。  小毬はヒトを殺しにきた。  これで死んだ新人種たちがうかばれるとは思わない。  ただの小毬の我侭。  小毬の我侭のために、飯嶋は死ぬ。  死ぬ。……死ぬ。 「……そうか、きみはわかってるんだね」  飯嶋の言葉に、思考を振り切って睨みつけた。 「なにが」     
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