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「芳賀魔巌二が行ったことを、過去だと切り捨てるのは簡単だ。けれど、過去は過去だが、変えられない不動なものでもある。きみの言うように、私は上の人間だ。選ぶべき二択のどちらとも悪でも、どちらとも正義でも、選ばなければならない。私は私の正義で新人種を殲滅する許可をだした」
「あなたの正義のために、彼らは殺されたんだね」
「きみの正義のために、私は殺されようとしている。違うかね?」
「……違う。これは正義じゃない」
小毬の我侭。小毬が勝手にしていること。
何が正しく、何が悪か。それは各々によって異なり、必ずしも統一されていない。けれど、今から小毬がすることは「悪」なのだろう。
どんな理由があろうと、加害者だけにはなりたくなかった。
加害者になってしまえば、小毬のなかの大切な部分が壊れてしまう気がした。
(――それでも)
「早く出て行ってくれないかな。このあと約束があるんだ」
「お前を殺しにきたと言ったはず」
「だったら早くしなよ。迷ってるの?」
そう言って、飯嶋は笑った。
手に力を込める。飯嶋の首に親指がめり込んだ。皮膚よりも温かなぬくもりと脈のようなものを指先に感じ、とっさに手を緩める。
小毬はヒトを殺しにきた。
これで死んだ新人種たちがうかばれるとは思わない。
ただの小毬の我侭。
小毬の我侭のために、飯嶋は死ぬ。
死ぬ。……死ぬ。
「……そうか、きみはわかってるんだね」
飯嶋の言葉に、思考を振り切って睨みつけた。
「なにが」
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