第九章 正義と、確固たる悪

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「きみは新人種に洗脳されていたって聞いてる。いくら新人種側の立場に立ち、彼らになろうとしても、本当の意味できみはヒトなんだ。だから、どちらの意見も理解している。新人種側の主張も、そしてたった今、私が話した主張も。新人種にとって私は最大の敵だろう。けれど、きみの目には、私はそうは映っていない」 「違う。あんたさえいなかったら、彼らは死ななかった!」 「私がいなくても、ほかの者が決めたさ。生憎、私はヒトだ。新人種側の意見や主張も理解できるが、納得できない。私は決断を迫られた。ヒトのための決断をした。それはきみにとっては、悪なの?」  悪。正義。何か正しいか、それを決める権利が自分にあると思うほど愚かではない。  小毬は歯を食いしばって、きつく目をつぶる。  飯嶋の首を掴む手が震えた。 「私を殺したあとは、自殺でもするつもり?」  そう言われて、息をつめる。 「きみには未来がある。どうやって死ぬかより、どうやって生きていくかを考えたほうがいいんじゃない?」  死ぬつもりなんかない。 けれど、どうやって生きていこうかなど、考えていなかった。  たった一人生き残って、病院で目が覚めて。すべてが夢のような気がして、こんな世界は偽物だと思った。 (へんなの)  見た目も口調もまったく違うのに、なぜか飯嶋の言葉がトワと重なる。飯嶋はヒト側にとって都合がいいことしか、言っていないのに。     
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