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なんだか無性に悔しかった。唇を噛んで、飯嶋を殺そうと首に力を込める。いや、込めたつもりだった。けれど、殺せない。殺したいのに。小毬のなかの何かが邪魔をして、身体が自分のものではないような気さえして、ただただ唇を噛んだ。血の味がした。
「……共存の道は、なかったの?」
「残念だけど、新人種を作りだした過程に問題がある。新人種とヒト、お互いの認識も違う。和解するとしたら、数十年から百年は時間が必要だと思うな。そのころには、新人種は絶滅しているだろう。だから無理だろうね」
小毬は、目を伏せた。
飯嶋の首から手を放そうとしたとき。
ふいに、ドアを叩く音がした。とっさに飯嶋の首に当てた手に力を込める。
「いないって言って」
「……それって無理があるよね。用事中ってことにしたいけど、たぶん勝手に入ってくるんじゃないかなぁ」
そう言いながらも、飯嶋は「今は取り込み中だから、あとにして」と告げる。息を殺してじっとドアを見つめる小毬の視線の先、ドアはゆっくりと外側に開いた。
長い髪と紅を塗ったような真っ赤な唇が、視界に飛び込んできた。
「ナニ言ってんの? 閣下が『A』を連れてこいって言ったんじゃ――」
言葉を途切れさせたのは、紅三郎だった。大きく目を見張り、右手に掴んでいた鎖を引っ張る。じゃらり、と音をたてた鎖の先には、十歳ほどの新人種の少年が繋がれていた。
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