第九章 正義と、確固たる悪

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 思わず、少年を凝視する。子どもには不釣り合いなほど強固な鎖に、猿轡。縛られていないのは足だけで、少年はほとんど引きずられるようにしてそこにいた。  紅三郎は軽く口笛をふくと、後ろ手でドアを閉めた。そして、流れるような動きで懐から拳銃を取り出し、小毬に向ける。 「やぁ、コマリちゃんじゃないか。面白い場面に出くわしちゃったなぁ」  紅三郎は小毬の視線を辿って少年を見ると、肩をすくめてみせた。 「ああ、コレ? コレは、うちで飼ってるモルモット。貴重な最後の新人種だよ。ちなみに『A』って呼んでる。まぁ、そんなことどうでもいいか。キミさ、もしかして窓から入ってきたの?」  小毬は紅三郎を睨み、飯嶋を前に突き出すようにした。 「銃を下ろして。じゃないと、この人を殺すから」 「ふぅん」  紅三郎の銃を持つ手が、軽く上に跳ね上がる。  それが何を意味するのか、最初はわからなかった。拳銃は撃てば爆発音に近い音をたてると思っていたのだ。  紅三郎が発砲したのだと気づいたのは、飯嶋が崩れるように倒れたときだった。 「……え」  飯嶋は胸を押さえ、床の絨毯をきつく握りしめた。そして次の瞬間、口から血を吐いた。口からぼたぼたと血を滴らせながら、飯嶋は浅く呼吸をする。 「しぶといね、さすが元帥閣下」     
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