第九章 正義と、確固たる悪

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「まさか。幾ら実験しても、なんの成果も得られなかったよ。ワタシは考えた。このままでは駄目だと。天才である私を学会から追放した愚かな世間を見返すには、どうすればいいか。……答えは簡単だ。新人種という実験体と、費用があればいい。またあの頃と同じような設備が整えば、ワタシは今度こそ不老不死を実現させてみせる。そのために、ワタシは若々しい見た目を手に入れた。あくまで見た目だけで、身体の中は老体だけどね」  紅三郎は、ふと口の端を歪ませた。黒い瞳の奥がぎらぎらと光り、小毬を威圧する。呼吸さえ苦しくなるのを感じながら、小毬は生唾を飲み込んだ。 「巌二はもう、研究者を名乗れない。あの事件のせいで。……おかしくない? 不老不死は誰もが憧れるものだろう? なのに、たかがモルモットが死んだくらいで悪者扱いだ」 (たかが、モルモット)  紅三郎の言葉を脳裏で反芻する。  トワを、百合子を、豪理をモルモットと呼ぶ彼は、事実、新人種を実験材料としか見ていないのだろう。鎖に繋がれている「A」を見る。彼の深い緑色の瞳は、紅三郎をとらえていた。彼もまた紅三郎の話に耳を傾けているようだ。 「ワタシは巌二の孫と偽って、所長にまで登りつめた。研究さえ成功すれば、ワタシの――芳賀魔巌二の名誉は回復する。いや、回復するだけじゃない。世界中に轟くよ、きっと。皆がワタシを褒め称えるんだ」  紅三郎は、拳銃を小毬に向けた。     
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