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「ワタシを殺すのかい? 天才的頭脳を持ったワタシを? 人類にとって大きな損失だよ。ワタシの不老不死の研究で、どれだけのヒトが助かったと思ってるんだい。ワタシは、医学に大きな進歩をもたらした。身体の内部が炎症するD型難病の特効薬も作った。今後も私の研究で助かる者は大勢いるだろう。キミは、そんな助かるかもしれないヒトの未来を――」
「うるさい」
小毬は、手を汚す。
この男を手にかけることで、小毬は何かを失うだろう。その何かがなんなのか、具体的にはわからないけれど。例え何を失ってもいい。
こいつさえ、この世から消えてくれれば。
小毬は紅三郎の首から手を離し、両手で彼の頭を持った。
そして、勢いをつけて紅三郎の首を正反対へ曲げる。ぐるり、と首は簡単に回り、ポキッと軽快な音がした。
小毬はしばらく、紅三郎の首から手が離せなかった。
離した途端、こちらを振り返って噛みついてくるんじゃないか、などと不気味な想像をしてしまう。
やっと、紅三郎が死んだのだと理解すると、ふらふら立ち上がって自分の両手を見た。小刻みに震える手は、見えない血で染まっているような気がした。
こんなに簡単に、ヒトは死ぬ。ただ少し、首を回しただけで。これが、死ぬということ。殺すということ。小毬が加害者になるということ。
(私は、人殺し)
目を伏せたとき。
じゃらり、と鎖の重い音がして、顔をあげた。慌てて少年の傍へ行き、彼の鎖を外しにかかる。何か工具はないかと部屋中を見て回ったが勝手のよいものは見つけられず、仕方なく鎖を引きちぎることにした。
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