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新人種の力を考慮した鎖なのだろう、なかなか千切れない。
「ん、んん」
「え? あ。猿轡、先に外すね」
鎖から手を離して、少年の顔半分を覆っていた猿轡を外した。少年は酸素を取り込むように呼吸を繰り返すと、小毬を見据え、口をひらく。
「お前は誰だ」
「私は、小毬」
「トワの力を受け継いだ、って」
「どうかな、私もよくわからないんだ。でも、今の私はもうヒトじゃない」
自分の言葉が重くのしかかる。
かつて望んでいたようにヒトから新人種になった、という意味ではない。横たわったまま動かない紅三郎を見る。
「……私はもう、ヒトじゃない」
まるで自分に言い聞かせているようだ、とどこか他人事に思う。改めて少年を見た。知的な目をした少年だ。見た目の歳からすると、まだ十歳ほどだろう。
「トワから聞いてる。ゼンの息子だって。あなたのことでしょ?」
「うん」
「名前は?」
「覚えてない。母は俺を産んですぐ死んだし、父は俺が二歳のときに死んだ。皆からは『ゼンの息子』って呼ばれてた。あ、ここでは『A』って呼ばれてる」
そう言って、少年は自分の身体を見た。身体に巻かれた鎖に噛みつき、強靭な歯で鎖を噛み切る。じゃらじゃらと重い音をたてて、鎖が床に落ちた。
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