第九章 正義と、確固たる悪

20/21
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ
「これ、外してくれてありがとう。これで俺も、皆のところへ逝ける」  少年はそう言って、自分の首を掴んだ。彼の親指が首にめりこみ、真っ赤な血が流れ出す。鮮血が少年の手を伝ってこぼれ落ちる前に、小毬は本能的に動いていた。  少年の腕を引き、彼の肩に手を置く。 「駄目」  少年は驚いた顔をして、まじまじと小毬を見つめた。 「死ぬなんて駄目」 「俺たちの誇りを侮辱するのか」 「死ぬことが誇りだと思えない。死ねばもう、何もかも終わりなんだよ」  みしり、と音がした。それが少年の肩から自分の手を伝って聞こえた音だと知り、慌てて手を放す。少年は軽く眉をひそめて、自らの肩を撫でた。 「ねぇ、生きようよ」  小毬は少年に、彼の命に、縋るように告げる。 「お願いだから。もう、誰も死んでほしくないの」  飛龍島で自害しただろう、仲間たちを思い出していた。最後に見た豪理の後ろ姿、崖から飛び降りた百合子。  彼らは死に誇りを持っていた。それもまた一つの道であり、彼らの価値観でもある。理解はできる。けれど、納得はできない。  死ねばそこで終わってしまう。  悦びも悲しみも、何も感じることができなくなるのだ。  少年はしばらく呆然と小毬を見つめていたが、やがてぽつぽつと口をひらいた。     
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!