終章

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終章

「あら、久しぶりやなぁ」  そう言って微笑んだ壮年の女性は、この本屋の店主なのだろう。以前に来たときも見た顔である。ここに来るのは二度目だが、この女性もよく小毬を覚えていたものだと感心した。それだけ客が少ないのかもしれない。  ここは彩我町という山奥にある辺鄙な町だ。樹塚町も不便な場所にあったが、ここはさらに人口が少なく、住んでいる者も高齢者が多かった。  この本屋の店主も、この辺りでは若い年齢に入る。  そういう理屈からすると、一度しか来たことがない小毬のことを覚えていたのも納得できた。 「わざわざ奥から買いにきてくれはったん?」 「はい」 そう言って持っていた本を置いた。 指三本ほどの分厚いハードカバーは、本屋の店先に大きな見出しと共に陳列されていたものだ。小毬は元々、この本を買うために奥――彩我町からさらに山奥へ行った場所にある集落――から、やってきた。  もっとも、小毬が現在暮らしているのはその集落よりさらに山を登った場所なのだが、この辺りに住んでいる人々からすれば「奥」に変わりない。  財布からお金を出して、本を購入する。     
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