33人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ
小毬はもう十七歳だし、高校を卒業したら独り立ちできる。中学卒業後に就職しないかという話もあったが、勉強がしたかった小毬は進学を選んだ。
勉強が好きだ。異国の言葉や歴史、生態系などの知識を深めるたびに、目の前がチカチカするような衝撃と、視界がひらけるような喜びを感じる。
もっと、もっと知りたいと、果てのない欲求が常に胸の奥底にあった。
小毬は、もう一度鞄を抱え直した。
そして、児童養護施設から顔を反らす。視線を向けた先は、東丁でも西丁でもない、北丁だ。北丁は、ドがつく田舎である樹塚町のなかでもとくに民家が少なく、おもに田畑や竹藪などの農耕地となっている。
(久しぶりに、行ってみようかな)
北丁には、おそらく小毬しか知らない秘密基地がある。
高校へ進学してからは通学だけで時間を取られ、なかなか行く機会がなかったその場所は、樹塚城跡にある小さな小屋だった。
樹塚城跡から少し外れたところにある、もう使われていないボロい小屋。
そこが、小毬の秘密基地だ。
そして今。
目の前には、例の死体――なのか? ――がある。
落ち着いて、と自分に言い聞かせて大きく深呼吸をした。
最初のコメントを投稿しよう!