序章

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 小毬はもう十七歳だし、高校を卒業したら独り立ちできる。中学卒業後に就職しないかという話もあったが、勉強がしたかった小毬は進学を選んだ。 勉強が好きだ。異国の言葉や歴史、生態系などの知識を深めるたびに、目の前がチカチカするような衝撃と、視界がひらけるような喜びを感じる。 もっと、もっと知りたいと、果てのない欲求が常に胸の奥底にあった。  小毬は、もう一度鞄を抱え直した。  そして、児童養護施設から顔を反らす。視線を向けた先は、東丁でも西丁でもない、北丁だ。北丁は、ドがつく田舎である樹塚町のなかでもとくに民家が少なく、おもに田畑や竹藪などの農耕地となっている。 (久しぶりに、行ってみようかな)  北丁には、おそらく小毬しか知らない秘密基地がある。  高校へ進学してからは通学だけで時間を取られ、なかなか行く機会がなかったその場所は、樹塚城跡にある小さな小屋だった。  樹塚城跡から少し外れたところにある、もう使われていないボロい小屋。  そこが、小毬の秘密基地だ。  そして今。 目の前には、例の死体――なのか? ――がある。  落ち着いて、と自分に言い聞かせて大きく深呼吸をした。     
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