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そっと身を屈めて、死体らしきモノを覗き見る。肌が透けているのは、何かしらの病気を抱えているからだろうか。彼の身体の下には大きな血だまりが出来ているが、その血は固まって黒く変色している。
樹塚城跡へ観光にきた折りに、猟師に間違って撃たれたのかもしれない。この辺りは猪や雉が生息しており、猟師を兼業している者も多く暮らしていた。
自らの胸の辺りをぎゅっと掴んで、小毬はさらに青年に近づいた。
「あ、あの」
そっと声をかけて、恐る恐る青年に近づく。
「生きて、ますか?」
反応はない。
小毬は思い切って青年の傍にしゃがみ、そっと手を伸ばした。小毬の手が青年の頬に触れようかというとき、唐突に青年の瞼があがる。
驚きから、小毬の身体が大きく震えた。
青年の目はぎょろりとしており、図鑑やテレビで見た爬虫類のようだ。そして瀕死の重傷とは思えない、意志の強さをその瞳に宿している。
青年の瞳はじっと小毬を見据えており、小毬もその瞳を見つめ返した。
ほとんど反射的に手を伸ばした。
小毬は真っ直ぐに、ただ青年の瞳だけを見ていた。丹奔人特有の、漆黒や濃茶の色ではない。彼の瞳は、透明ガラスのような翡翠色をしていた。
頭のなかが、真っ白だった。小毬の意識は青年の瞳の色にのみ向いており、触れてみたいという欲求に抗えない。
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