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小毬の手が青年の顔に近づくにつれ、青年の瞳が爛々と輝きを増す。まるで手負いの獣のようだ。近づくな、とけん制しているのだろう。
伸ばした小毬の手が、青年の透明な肌色の頬に触れる。頬はほんのりと温かかった。
「きれいな、目」
青年が、こぼれんばかりに目を見張った。
彼の瞳が揺れるのを見て、小毬は我に返る。慌てて手を引っ込めた。自分がしようとしたことに対して青くなる。
小毬は青年の瞳に触れ、そしてそのまま瞳をえぐりだそうとしたのだ。あまりにも、綺麗だったから。
「あ、あの。だ、大丈夫、ですか」
とっさに紡いだ言葉は、我ながら違和感の塊でしかなかった。変色した血だまりに横たわる、肌の透けた青年に対して言う言葉にしては、やや社交辞令じみている。どう見ても瀕死に近い姿だというのに、大丈夫なわけがない。
そもそも、この青年は何故こんな山奥にいるのだろう。間違えて撃たれたのならば、山を下りて人を呼びにいくべきだろうに。
小毬はじっと青年を見つめた。返事が欲しいという願いを込めて。
けれど青年は何も言わず、ただ小毬を信じられないものでも見るような目で見つめてくる。
「そうだ、救急車。救急車、呼びます!」
一体、何をぼうっとしているのだろう。目の前に大けがを負った――おそらくだが――者がいるのに、何もしないわけにはいかない。
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