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第一章 新たな世界へ
樹塚町には、小さなスーパーマーケットが二件ある。それぞれ東西に一軒ずつ。東丁にある店のほうがやや大きく、文房具などを揃える際にはそちらを使う。
学校帰り、小毬は東丁のスーパーに寄った。
なけなしのお小遣いで、ジャムパンとパックの牛乳を買う。
「小毬ちゃん、最近よくお腹が減るのねぇ」
店番をしている小太りの年配女性が、微笑みながら言う。小毬は、「ええ、まぁ」と曖昧に頷いて、そそくさと逃げるように店を出た。
鞄に購入した食べ物を押し込み、じりじりと肌を焼く陽光に耐えながら樹塚城跡近くの小屋を目指す。
(明日からは、学食でおにぎりを買ってこよう)
購買部にはパンが売っていないために、持ち帰る食料となると菓子類かおにぎりになる。この季節、おにぎりは具が腐るかもしれないと敬遠していたが、地元のスーパーで繰り返し買い物をするのもそろそろ限界だろう。
(梅干しにすれば、腐らないかもしれないし。たぶん)
そんなことを考えながら、通い慣れた山道を歩く。何度登っても、滝のように流れる汗は抑えられない。
流れた汗をそっとぬぐう。
暑い。早く小屋まで行き、「彼」に会おう。
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