第一章 新たな世界へ

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 コンクリートで舗装された道を途中で逸れて、小屋のほうへ進行方向を変える。ここまでくると、あとはうっすらと地面が見える獣道を歩いていくだけだ。不思議とこの獣道だけは、何年経っても消えることはない。きっと、実際に多くの獣がこの細道を利用しているのだろう。  もう少しだ、と微笑みながら、ふと、この場所に初めて来た日を思い出す。  小学校低学年のころだった。  クラスメートや担任とのぎくしゃくとした関係に辟易し、どこか遠いところへ行きたいと、この山を登ったのだ。そして泣きながらひたすら歩き、その果てにたどり着いたのがこれから行くボロ小屋である。  あのころはまだ幼く、とてつもなく遠くまで来た気がした。なのに、高校生になった今ならば、一時間もかけずに小屋まで行けるのだから、小毬も成長したものだ。  そんな辛く懐かしい想い出も、小屋が見えると思考から抜けていった。  ひょっこり顔を覗かせれば、緑の髪の青年が半身を起こして木材に凭れている姿が目にはいる。青年は足音で小毬の訪問を予想していたようで、小毬の顔を見ると苦笑を浮かべた。目の下にはくっきりとした隈があり、こけた頬といい、彼のまとう雰囲気は壮絶で病的でもある。しかし彼いわく、病的な見目は本来の姿であって、怪我が原因というわけではないらしい。  小毬は青年の傍に寄ると、鞄を地面に置いた。 「起きて大丈夫なの?」 「ああ。今日も来たのか」 「うん。ご飯、買ってきたから食べて」     
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