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第二話:激情
あの日から一か月が経過しようとしていた。
学校にも通えぬまま塞ぎ込んだままの風花であったが
じっとしていれば頭を過るのは大翔のことだけ。
共に過ごしてきた当たり前の幸せの日々が何度も何度も頭を巡る。
それから逃げ出したかった。何ならすべて忘れてしまったほうがいい。
すべてを振り払うように風花はその日の朝、両親の制止も振り切り
家を飛び出し当てもなく近所の山中を駆け出した。
何度も転び、何度も息が切れ立ち止まるたびに大翔の遺体を思い出す。
「いやぁぁぁああああ!うわあああああああああ!!!」
この日初めて、風花は心から泣き膝から崩れ落ちた。
膝は擦りむき、枝で頬は切れ出血し、体はすでに泥だらけだ。
小一時間ほどその場で泣き通した後、風花は再び走り出す。
子どもの頃、あんまり遠くに行っちゃいけないよと両親から教えられていた風花。
走りながらふとそんなことを思い出した。
「そんなこと・・・どうだっていいよ・・・私はもう子どもじゃない・・・!!」
がむしゃらにがむしゃらに、絶叫しながら走り続けた。
「はぁはぁはぁはぁ・・・。」
しばらく経って、体力が尽きた風花はドサッと山中でうつ伏せに倒れこむ。
最早風花にはここがどこだか分からないほどに山の奥まで入り込んでしまった。
もう、何ならここで死んでも構わないとそう思った。
大翔の傍にいられるのならそれでもいいと。
その時だった。
ザッザッザッ・・・
突如人の足音が聞こえる。
それは風花の耳にも確かにはっきりと聞こえていた。
足音は風花の正面からどんどん近づいてくる。
「誰・・・・・?」
足音は風花の目の前でピタリと止まった。
風花がそっと顔を上げると、そこには山伏の格好をした
恐ろしい顔の老人がジッとこちらを見つめていた・・・。
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