香りの記憶

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【嗅覚だけは脳の働き方が違って本能的な感情を呼び起こす。私達は嗅覚に無意識に支配されている】 そういう言葉を聞いた事がある。 「いらっしゃいませ。今日はどんな香りをお探しですか?」 「あの……香りじゃなくて今度一緒にご飯でも行きませんか?」 アロマキャンドルやハーブティー、アロマテラピー用の精油などが揃っている店で働いている調香師の男性はまだ珍しいのか、時折女性客が近寄ってくる。 スンと無意識に香りを嗅いでしまうが、鼻に付くのは甘ったるくて人工的な香水の匂いだけ。全く感情を揺さぶられない。 「仕事がありますので」 きっぱりと断り仕事に戻る。女性客が出て行った後にお気に入りの精油をポットに少量垂らして香りを吸い込む。 「やっぱり、この香り落ち着くな……」 落ち着いた森林系の香り。胸いっぱいに吸い込んで気分を落ち着かせた。 ーーある雨の日。 「今日は暇になりそうだな」 棚の掃除をしながらのんびりを仕事をしているとカランとドアベルの音と共にスーツ姿の男性が入って来た。 「いらっしゃ……」     
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