第1章

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「で、でもそっちも人を殺してみたいって」  突然、目の前の好青年が化け物に見えた。  何を言っているんだ。  彼とはSNSで出会った。会ったのは初めて。死にたいという僕にメッセージをくれたのだ。  『僕が殺してあげましょうか』  最初は悪戯だと思った。こんなこと本気で言うやついるわけないと。でも、あの時は精神的に限界だったんだ。縋りたかった。一パーセントでも死ねる可能性があるなら。そう思ったら指が動いていた。  『人を殺してみたくて』  にこ、とほほ笑む顔文字と共に送られてきた言葉はひどく不釣り合いなものだった。  きっと、頭のおかしい奴に違いない。  そして、そいつに殺せと頼む自分もかなりおかしい奴なのだろう。  でも、利害は一致していたはずだ。死にたい僕と殺したいあいつ。ウィンウィンの関係ではないのか。 「そりゃああなたは死んだらおしまいでしょうけどこっちは生き続けなきゃいけない。逃亡資金くらいくれてもいいと思うんですけど」  むしろ足りないくらいですよ、という彼の表情はずっと微笑んでいる。目鼻立ちのきれいな好青年だと思ったが今は不気味でしかない。  何が面白いんだ。 「そんなお金ありません」 「ならできませんねぇ」  間延びした軽い口調。こいつは、ふざけているのか。 「最初から本気じゃなかったんだろ。どうせ辛気臭い奴から金取ることが目的だったんじゃないのか?最悪だな」  怒りで頭が湧く、とはこのことだろうか。かっと、全身がほてり、言いたいこともまとまらないくらい思考が停まる。こっちは本気で悩んでいたんだ。毎日苦しくて、他人から向けられる悪意にもう耐えられなくなって。死んだほうがいいんだ、この世に僕がいない方がいいんだと思って。  死にたい。  それしか考えられなかった。それでもできなかった。  包丁を握る手は震えるし、絶対失敗したくはなかった。インターネットで自殺方法を探してみても失敗談ばかりが出てきて恐怖心を煽る。失敗するはけにはいかない。親にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないのだ。  だから、確実に見届けてほしかった。苦しい、いやだ、と泣き言を言っても決して手をとめずに遂行してくれる人がほしかった。  それなのになんだ。こいつはずっといい金ずるだと思ってスマートフォンの向こうであざ笑っていたのか。 「ふざけるな」  ひどく冷たい声だった。
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