第二章

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 緑川君はクラスの中でもそこまで目立つ人ではなかった。帰宅部で仲のいい人とは結構しゃべるタイプらしいが正直あまり話した記憶がない。 「菅野君のほうがいいんじゃ」 「こういうのめんどくさいから。この班じゃテンションも上がんねぇし」  あーあ、と大きい声を出してこっちを見る。  先生が粗方の日程を説明し始めた。  死にたい、死にたい死にたい死にたい。  頭の中はそれだけでいっぱいだった。  スケジュールの説明なんてどうでもいい。もう、話なんて聞いていなかった。   体が重かった。いつもなら起きれるところをなかなかベッドから出れない。  『ごめん、今日休むって伝えてもらえる?』  小田にメールすればすぐに返ってきた。 『大丈夫かー?了解』  いつも気さくで明るい小田に感謝しながら布団にもぐりこむ。何もやる気が起きなかった。目を閉じてくれば襲ってくる眠気に、体が現実逃避をしているようだった。このまま、眠って目が覚めなければいいのに、なんて考えたところで意識を失った。  そんな願いが叶うわけもなく、スマホの着信音で目が覚めた。 『ごめん、お昼の仕事からコンビニのバイトのほうにまっすぐ行こうと思ったんだけど制服忘れてしまって。届けてもらえない?』  部活がないと嘘をついてしまった手前、断ることもできずに家を出た。  母が働くスーパーに行けば休日にもかかわらずそんなに混んでなかった。時間帯も昼前だからかもしれない。  店員さんもゆったりとしていて、穏やかな空気が流れている。 「それにしても、伊藤さん大変よね」 「あぁ、旦那さんあんなに大きな事故起こしちゃって」  中年のおばさんのひそひそ声が聞こえてきた。 「まじめな人だからあれだけどさぁ、男運なさそうよね」 「わかる!苦労しそうな顔してると思ってたのよ」  まるで他人事の会話だった。自分のことじゃないから好き勝手言える。それでも、母さんも好奇の目にさらされていることを改めて知った。そりゃあそうだ。全国放送で報道されるくらい大きな事件だったのに知られていないはずはない。居心地だって決していいものじゃないだろう。それでも、そんな素振り一切見せなかった。
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