第二章

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 母さんも頑張ってるのに、僕はいったい何してるんだろう。すぐに学校休んで、嫌なことから逃げて。いつの日か、父さんに会いに行った日を思い出した。ただ、申し訳ないと泣く父に何とも言えない頼りなさを感じた。それに自分が重なった。  ああなりたくない。 「優太、ありがとう。ごめんね」 「いいよ。仕事頑張って」  ありがとうと笑う母は、去年より相当老け込んでいた。帰り道を急いだ。ここでくじけている場合じゃない。大学までの我慢だ。受験のために今は勉強しなきゃ。頭の中はそれだけだった。  新体制の部活が始まった。 「部長は関。副部長は小田」  ざわ、さざ波のような動揺が広がる。  この学年で一番実力があるのも、人柄がすぐれているのも、小田だ。彼が新部長だと疑わなかった。 「関は先日の大会で二年生の中で好成績だったからな。期待してるぞ」 「はい!」  関の誇らしげな顔に何とも言えなかった。 「絶対小田だと思う」 「いやぁ、どうなんだろ。まぁどっちでもいいけどさぁ」  帰りに二人で歩いた。小田は笑っていたがやっぱり納得いかなかった。  先輩後輩共に仲が良くてかわいがられていた小田のことは先輩も推していた。だが、こ学校の卓球部は代々顧問の先生が部長副部長を決めていた。「あの先生卓球経験ないからわかんないんだよ」そう、先輩も愚痴っていたくらいだ。要は、結果で決めたのだろう。確かにあの日関は、準決勝まで進んだ。でも、試合は運もある。それがあの人は分かっていないのだ。 「だけどさ、ちょっとだけ、俺が部長で伊藤が副部長だったらな、なんて思ったよ」  前を歩く小田の顔は見えなかった。でも、少し寂し気に聞こえた。  空はもう日が暮れようとしていた。  体力は徐々に戻りつつあったが、一度落ちるとこんなにも苦労するものなのかと改めて実感した。 「休憩!」  張り切っている関の声に座り込む。部内での対戦形式の練習で一二年合わせて正直あまり良くない戦歴だった。 「落ち込むなって。体力さえ戻ればいけるって」  スポーツドリンクを小田から受け取る。成績は壁際のホワイトボードに記されており、小田は全勝だった。それに対して席は六勝四敗、あまりいい結果とは言えなかった。 「関、焦ってんな」  声を潜めて小田が言う。あからさまにイライラしている。成績が良くて部長になった手前気まずいのだろう。まぁ、僕は負けてるから何も言えないけど。
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