第二章

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「それより竹内うまくなったね」  一年の竹内が小田に続いて好成績だった。 「それね、竹内もともと運動神経いからなぁ」 「天賦の才か。それは勝てない」 「いやいや、勝つために頑張れよ」  ははは、と笑って休憩が過ぎていった。  最近、関さんうざくない?  部室から聞こえた後輩の声に足を止めた。 「わかる、超偉そう。命令系がむかつく」 「対して強くもないくせにな」  恐れていたこと、と言うよりも、分かり切っていたことが起こってしまった。日に日に関の言い方がきつくなり、部活で孤立していった。同級生には仲のいい奴もいるが、後輩には点で人気がなかった。そして、先輩からもそうだった。勉強の合間に練習に付き合ってくれる先輩は無意識だろうが小田と、そして近くにいる僕とよく話すことが多かった。先輩方は優しいから、僕の家のこと今でも心配してくれるし、だから構ってくれるんだろう。それが、彼は気に入らないのだ。 「息上がんの早い。なまけんな!」 「小田も気を抜かない」 「一年ダラダラしない」 「準備が遅い」  挙げればきりがないほど、きつい言葉を聞いてきた。だから、言いたいことも分かる。それでも、部室で先輩の悪口はだめだろう。現に、僕の後ろには関がいて、多分、聞こえている。 「顔洗ってくる」  関が背を向けていく。  残った同級生で困ったように顔を合わせるしかなかった。  次の日、関は大丈夫だろうかと見ると目が合った瞬間逸らされた。やっぱり教室ではしゃべらないんだな、くだらない、と内心ため息をつきつつも、いつもと変わらない態度に安心していた。 「実験道具を後ろから持って来て、準備してください」  化学の授業は、憂鬱なものの一つだった。隣同士が向かい合ってしまうので菅野君と向かい合う羽目になる。揺れる足が視界に入るだけで気分が悪い。重い気分を無視するように器具を取りに行けば誰かとぶつかった。 「ごめん」 「チっ」  舌打ちで返ってきた。ぶつかった相手は確か、関と仲のいい木村君だった。 「ぶつかってきたんだけど」 「最悪」 「あいつ部活で調子乗ってるらしいよ」 「うわ、教室での反省してる態度はポーズだけかよ」 「最悪」  ひそひそと僕にだけ聞こえてくる声に真っ暗になった。 「大丈夫?具合悪い?」  立花さんだった。 「平気」  何とか笑ったけど、上手く笑えていただろうか。
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