第二章

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 今まで、傍観に徹していた奴らが敵になっていた。関を見ると嫌らしい笑顔を浮かべていた。その目はひどく冷たく、全身を震わせた。 「伊藤遅い!」  部活では関が相変わらずだった。しかし、標的が僕だけになった。 「練習さぼんな」 「ペナルティ、もう一周」 「ちょっと、やりすぎじゃない」   小田が口を出せば、細い目でぎろりとにらんだ。 「なに、口答えすんの。部長は俺なんだけど」 「だったらちゃんと部員のこと見ろって」 「部長面やめてくれる。成れなかったからって僻んでんの」 「そんなわけ」 「ちょっとまって」  険悪な空気が広がってく。一年生は嫌そうに目を背け、同学年も気まずそうに眉を寄せた。 「体力落ちたのは事実だから。走ってくるからそれでいいだろ」  小田が心配そうに見てくる。別にさぼっているわけでもない。怠けているわけでもなく至極まっとうにやってこれなのだ。一度体力が落ちて、それからも精神的に学校がきつくなっては休んでたから二週に一回くらいは休んでいた。  その調子では、体力が戻っていかないのも納得だったし、文句も言えなかった。  終わる頃には、足は棒のように動かず呼吸も苦しくて起きてられなかった。  そういえば、と母さんが始めた。久しぶりの休みだった。 「コンビニにね、時々怪我だらけの子が来るのよ。顔にもいっぱいあって、今時の子って喧嘩するの?」 「さあ」  不良とかはするかもしれないけど、普通はもうそんなことしない。相手を攻撃しようにもいくらでも方法がある。そう例えば精神的に。  殴り合いで済むならそれでよかった。正直精神的に痛めつけれられる方がきつい。  母さんは不思議ねぇ、いじめかしら、と首をひねっている。今時いじめでも直接的な暴力はない。  頭の中であいつらの顔を片っ端から殴る。菅野、橋本、渡辺、関、木村、他にも。  本当にこんなことができればいいのに、と思いながらちょっぴりスカッとした。    大丈夫。まだやれる。 「パス!パス!」  体育のサッカーは試合になっていた。走っても走っても回ってこないボール。  相手の班の人がカットして軌道が変わったボールがこっちにキタが急すぎて取り損なう。 「んだよ、役立たずが!」 「おーい、怖いぞ菅野―」  からかうような見学班の声と容赦ない憎悪。 「はい、じゃあ隣同士向かい合って音読しましょう」
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