第3章

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 確かに年が近いと思ったけど、まさか同じクラスの人間なんて思わなかった。 「神崎君久しぶり」 「本当に何日ぶりだよ」 「時々学校には来てたんだけどね」  彼は昨日、喫茶店で会った時と同じ笑顔を浮かべていた。 「神崎はいいよな。親金持ちだし、学校来なくても勉強できるし」  クラスの誰かが言った。やっかみじゃない、羨望の言い方だった。  うちのクラスには一人、全然学校に来ない人がいた。  神崎暁人。  生まれつき体が弱いらしく、僕は会ったことがなかった。多分、休んでいる間に学校に来ていたんだろう。きれいな顔だからか女子が多く取り囲んでいるが男子にも人気があるらしい。昨日までふんぞり返っていた菅野はもう立派な子分だった。  目が合うと、彼はニコリ、と音がしそうなほどきれいに微笑んだ。その瞬間咄嗟に顔を背け自分の席に座る。イヤホンをしているから周りの音は聞こえないはずなのに、陰口が聞こえた。  あいつの親人殺しなんだよ、関わらない方がいい、辛気臭い、気持ち悪い。  激しい鼓動が頭の中で鳴り響く。息が苦しかった。  どうして、あいつが居るんだ。死にたいなんて思ってるってばれたらどうしよう。 「どうしたの、顔色悪いよ」  突然入ってきた声と周りの雑音に心臓が固まる。目の前には立花さんが立っていた。その手には僕のイヤホンを持っている。 「昨日も休んでたし、やっぱり具合悪いんじゃない」 「・・・」  口を開いても、声が出てこなかった。 「やっぱり保健室行こう。無理は良くないよ」  やめてくれ。立花さんが来ると余計彼らの態度が悪くなる。ほっといてくれ。心配してくれてうれしい。辛い、保健室行きたい。死にたい。僕に嫉妬してないで告白すればいいだろ。巻き込むな。怖い。  突き刺さる視線を背中に感じながら、ただうつむくことしかできなかった。後ろから舌打ちが聞こえる。ぐるぐると渦巻く環状に飲み込まれて息ができない。いっそ死ねたらいいのに、心は死んでも肉体がこんなに元気なのが憎らしい。 「一人で大丈夫だから」 「え、でも・・・」 「本当に、もういい」  ちょっときつい言い方になってしまった。せっかく心配してくれたのに、立花さんは悪くないのに、当たってしまった。  また一歩、自分が嫌いになった。  でも、もう取り繕う元気も、立花さんを気遣う余裕もなかった。ふらつく足をゆっくり、保健室に向けた。
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