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「死にたいなら勝手にすればいいものを自分のわがままで他人を犯罪者にさせようとしておいてなに被害者面してるんですか」
あんたは加害者だ。
さぁっと頭が冷える。
加害者。俺が。今度は冷や汗で背中がじっと濡れる。張り付くシャツが気持ち悪い。
俺が、悪いのか。
だってこいつは殺したいって言うから。罪のない人間を殺すくらいなら死にたいやつを殺せばいいだろうって思って。
「あなたに何があったのかは知りませんが随分身勝手、ですよね」
「そんなつもりじゃ・・・」
「じゃあどんなおつもりですか。死んだらおしまい、あとは知らない、なんて身勝手以外に何だというんですか?」
膝の上に置いた手が震えた。
彼は終始笑顔だ。声も柔らかい。それなのに言葉だけが鋭い刃になって突き刺さる。
「交渉決裂、ですよね」
返事をすることができなかった。
男は、さっきまでの笑顔を一瞬で消した。その表情があまりにも冷たく全身に寒気が走る。そのまま無言で、去っていった。僕は震えながら、ただ、テーブルに彼がおいていった小銭だけを見つめることしかできなかった。
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