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黒髪をきれいにまとめた女性の言葉に母が頷くと中に案内された。そこはだだっ広い部屋にベッドが何台も置かれその間にカーテンで仕切られた部屋だった。バタバタとお医者さんや看護師さんらしき人が慌ただしく動いている。その中で一番手前のベッドに案内された。カーテンの中に入ると父さんが横たわっていた。
「お父さん!」
母さんはベッドに駆け寄ると父さんの顔を触った。いや、縋りついたという方が正しいのかもしれない。強張っていた表情が一気に緩み崩れた。
「あの、旦那は・・」
「腹部に軽い打撲を負っていますが命に別状はありません。数週間で完治すると思います」
淡々と告げられる女医さんの言葉に母は長い息を吐いた。
「良かった」
なんだ、やっぱり大丈夫だったじゃないか。
安心したらどっと疲れが押し寄せてきた。思ったより自分は気を張っていたらしい。
心配して損した、という気持ちをこめて溜息を吐いた。
「そんな!嘘だ!」
突然男の人の声が聞こえた。どうやら隣のベッドから聞こえるらしい。
「ここに来た時点で、もう処置できる状態ではありませんでした」
医師だろう男の人の声に続いて先ほどの男の叫声が響いた。
力が抜けたはずの体が再び固まった。隣の人も同じ事故の被害者のだろうか。父さんは助かったが助からなかった人もいたのだ。一歩間違えば父さんが死んでいたかもしれない。
その考えが頭に浮かぶと同時にさぁっと血が引くのがわかる。
叫ぶ男性のことを思うと父さんが助かったことをこれ以上この場で喜ぶことができない。
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