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第四章 結婚相談所
「今度の国際マーケティング部の部長、絶対、菱宮さんで決まりよね。惑星間連絡船のワープエンジンの契約を勝ち取ったの、菱宮さんだものね」
「まだ三十歳よね。スピード出世ね」
「だって、MIT首席の我が社のホープ。それぐらいあってもいいんじゃないの」
菱宮 香の勤める総合商社、菱山物産では今度の人事異動の話で持ち切りだった。
誰もが菱宮の昇格を期待していたし、それ以上に本人が望んでいた。だが、会社は学校でもなければ、オリンピックでもない。成績優秀者が常に栄冠を勝ち取れるわけではない。常務の娘婿になった大岡修平(おおおか しゅうへい)という名前も平凡なら仕事の出来も平凡な男が国際マーケティング部長の席を射止めた。
「香、優香の出産祝いどうする」
香の携帯にメッセージが入っていた。いつもは気にも留めない同期からのメッセージ。彼女らと違って会社の仕事に全精力を降り注いで来た。浮いた話もなければ、浮かれた話自身にも興味がなかった。でも、ここに来て、会社人事という壁にぶつかって、結婚という二文字も頭をもたげて来た。
「そういう人生もあってもいいかも知れないな」
そう考え出すとじっとしてはいられなかった。頭の回転も速ければ行動も素早い香は結婚相談所の門を叩いていた。
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