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「そりゃあ驚きますよね……。……失礼ですが、生前のお名前は?」
私がそう聞くと、ロウチャさんは「お? 聞きたいかい?」と口角を上げながら意地悪そうに言ってくる。
正直気になる。同じ日本人なら、ちゃんとした姓名だってある。
きっと素敵な名前なんだろうな。
「じゃあ教えてあげよう! アタシの生前の名前は月見里樹寿! 月見里が苗字で、樹寿が名前ね!」
「月見里……とても珍しい苗字持ってますね」
「でしょでしょー? こう見えてお姉ちゃんもいたんだよー?」
「へぇ……お姉さんのお名前は?」
「月見里心寿! みこお姉ちゃんって呼んでたんだい!」
「心寿さん……その心寿さんはここに?」
「ううんいないよ?」
「へ?」
いない?
それは一体どういう意味でのいないなのだろうか。その考えを察したのか、ロウチャさんは口を開く。
「お姉ちゃんは生まれ変わりを経たんだい。だから、多分どこかで別の生を与えられてしぶとく生きてんじゃないかな?」
「しぶとくって……」
「まぁ軍人とかになってたら面白いけどね! あはは!」
彼女は立ち上がり、木製の物棚にある引き出しに手を伸ばし、メジャーを取り出しながら面白そうに呟いていた。
「どうしてですか?」
「お姉ちゃん、生前から軍人が嫌いなんだい。というか、銃とか人を傷つけるものは全般嫌いなんだってさ。アタシはかっこいいと思うんだけどなぁ……あそうだ、デザインとか絵描くの得意?」
「え? えぇ……得意ですが……」
「じゃあちょっと手伝ってよ、時間あるしょ?」
私のスリーサイズを測ってメモ帳に記入した後、生地やハサミ、ミシン、マチ針等、服を作るのに必要なものを手にいっぱい持ってくる。
「この紙に、自分が着たい服をデザインして! 出来ればシンプルにね~」
渡された鉛筆を持ち、いざ紙と対面してみる。
そうは言われても、いきなり頼まれてもデザインが思い浮かばねぇ……と思っていた時。
パッといきなり、頭の中にデザインが思い浮かぶ。
それはあまりにも突発的で、何も考えていないのに唐突に脳裏によぎったデザインが一つだけあった。
まるで、『誰かに導かれた』ように。
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