2.過ぎ去った日々。想い出まで抱きしめて。

2/21
前へ
/60ページ
次へ
響の体質に効く薬だが、その病気を治すためのものではなく、あくまでも症状を抑える薬だ。 基本的に風呂上りと外出する前、体全体に塗る。スキンクリーム、ボディークリームと一般的には呼ばれているが、彼の場合、市販の一般品を用いると体に湿疹ができ、痒みと痛みでとんでもないことになるのだ。その為、母親が発祥直後から三年かけ、やっとの思いで彼の体に合う薬を見つけた。 家は響と母親の二人暮らし。 父親はいない。 なぜか母親は理由を教えてはくれなかった。 ただ一つ伝えたことは「遠いところに行ってしまった」ということのみ。 死んでしまったのか、生きているのかさえもよくわからないけれど、母は息子を大切にした。 だから、あえてしつこく父親がいない理由を聞こうとはしなかった。 彼の病気に効く薬の名前はガラムソーヤという薬で、ぱっと聞いただけだとカレーの香辛料のガラムマサラや有名な話のトムソーヤとでも聞き間違えてしまいそうなそんなふざけた名前の薬。 しかもこの薬の開発者が彼の親友、蒼野(そうや)堵夢(トム)の父、蒼野(そうや)咲(さく)夜(や)であったのは、堵夢が響の家に遊びに来たとき、このガラムソーヤを発見し、それについて一言発したのをきっかけに知ることとなった。  「おっ、ガラムソーヤじゃん!これ、俺の父ちゃんが開発したんだぜ!ほら、ソーヤ!俺、蒼野!」 って。それを知ってからというもの、響の母親はやたら堵夢をひいき目に見るというか、堵夢が家へ遊びに来た日には、やたらお菓子は出す、堵夢の父親のことを聞いていた。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加