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入学式から一週間後。授業のオリエンテーションも終わり、仮入部期間がやってきた。これから一週間の間にいろいろな部を見て、自分の入りたい部を見つける。もちろん勧誘のプレッシャーはすごく、どの部も部員を一人でも多く獲得しようと躍起になっている。特に朝の校門から昇降口までは、毎日戦場のようである。
通学路の川辺の桜も満開を少し過ぎ、散った花びらが川面に浮かんでいる。
「ねぇ、さおりんはもうどの部活動にしようか、決めたの?」
「私はね……写真部にしようって思ってるんだ」
「へぇ、さおりんが写真かぁ。でも、どうして?」
「それは、まあ、いろいろあって……」
「ひょっとしてさ、西大寺君がらみだったりする?」
図星だ。その言葉を聞いた私の動揺を有紀は見逃さなかった。
「やっぱりかー。まあ、でもさおりんらしいか」
「どういう意味?」
「えー、言葉通りの意味だよ」
そう言うと、有紀は小走りになる。
「ほら、早くいこ。遅刻しちゃう」
「うん、そうだね」
私の頬を撫でる風は暖かく、心地よかった。ほんと、有紀には敵わないな。
その日の放課後。私は早速写真部の部室に向かうことにした。私の通う朝宮高校は4つの棟から成っている。
まずは、教室ばかりがある教室棟。その南側に管理棟があり、職員室や音楽室などの芸術系、家庭科室などがある。一方、北側には理科棟があり、理科の各教室と準備室がある。お目当ての部室棟はそのさらに北側にある。主に文化系の部室があり、そのほとんどの部屋が埋まっている。写真部はその棟の西の端にあった。なんでも、暗室の関係でここにしかできなかったとあとで知った。
そうこうしているうちに、目的の部屋の前に立つ。少し緊張しながら、ノックする。
「はい、どうぞ」
中から、落ち着いた男の人の声がした。
「えっと、失礼します」
扉を開けると、そこはワンルームほどの広さの部屋で、壁に備え付けの棚には、おそらく備品だろうか。たくさんのカメラが並んでいた。
「えっと、もしかして入部希望の一年生?」
「はい、えっと、一年二組の佐倉沙織です」
「佐倉さんっていうんだ。はじめまして。僕は副部長の建部といいます。それで、そこでカメラを磨いているのが部長の相生さん。少し変わったところもありますが、まあいい人です」
「おい、建部。変人っていうのは余計じゃないか」
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