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初恋。それは、おそらく誰もが一度は経験したことのある不思議な気持ち。きっかけは様々だが、それはどれも些細なことがほとんどである。私、佐倉沙織もそんな人間の一人でありまして。
それは中学二年生のときだった。今年は長いと言われていた梅雨が、テレビの中の予報士の発現とは異なりさっぱりと明けて、さあ夏本番ですよと言わんばかりにセミの鳴き声がし始めた七月初旬。彼が私の前に現れたとき、『何でこんな時期に?』と思ったのをよく覚えている。
転校生の名前は西大寺蓮。他の生徒からきいたら、何でも家庭の事情とかで、急なことだったらしい。背はすらりと高く、誰とでも壁を作ることなく、転校して一週間で、あっという間に彼はクラスの中心的存在になっていた。
季節は秋になり、文化祭の役員を決める時、私は偶然にも西大寺君と買い出しの係になった。その時に「よろしくね、佐倉さん」と言われたのだ。屈託のない笑顔付きで。多感な時期の私はキュンとしてしまって、そのあとは、まともに彼の顔を見ることができなかった。彼は、少し不思議そうな顔をしていた気がするが、その時はきっと少し変わった子だ、とか思われたんだろうな。
それから、私の片思いは中学卒業まで続いた。その間、彼は何人にも告白されていたみたいだけど、全て断わっているみたいだった。その理由は誰にもわからないけど、少なくとも他の誰かと付き合っているからというわけではなさそうだった。
中学生最後の三月。卒業式も終わって、少し寂しい気持ちになった。というのも、彼は成績優秀で、県内でトップの秀明高校に進学するのだと思っていた。一方で、私の成績は中庸で、よくてもいわゆる中堅の朝宮高校に進学が決まっていた。街中ですれ違うことはあっても、彼と話す機会はめっきりなくなるだろう。初恋とはこうはかなくも終わるものなのだと、そう思っていた。
しかし、神様は時にいたずらをするもので、思ってもみなかった再開をすることになったのです。
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