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「あっ、白石さん。ぼく、今日、別のトラブルでこれから名古屋に行かないといけなくてね、ごめんけど、黒崎くんと行ってきて」
吉川部長が『大手自動車会社の生産ラインロボットにトラブルが起きたから、責任者が行って頭を下げて、修理しないと』って、肩を落とし溜息をつきながら、ホワイトボードに行き先を書いて、足早に去って行った。
黒崎さんと視察は初めてではない。
彼の相手先での対応は完璧で、営業職みたいに顧客に誠意ある対応をし気に入られ新しい仕事を行く先々でとっていた。
きちんと本来の目的、AIロボットの動作確認も、小さな不備でも見落とさず訂正する姿は流石だと思う。
ただ、自分の知識や能力の無さを目の当たりにして、凹んでしまうから、できるなら同行したくない。
それに、ただでさえ、婚活目的の女子社員からロボット開発部のエンジニアは狙われてるのに、容姿端麗で出世コースで技術的快挙を成し遂げそうな黒崎くんだと、熱血的にアプローチしてくる綺麗女子は多い。
そして、席が隣だけで女子力が低下しているわたしに、『黒崎くんに手を出すな』と睨みつけてくる女子社員が怖くてならない。
「黒崎さん、先に外で待っててくれません。資料を確認してすぐに降りるので」
黒崎くんと一緒に社内を歩きたくない。
AIロボットのプログラムを入れたノートパソコンと、各企業別に渡す書類などを大きめのビジネスバッグに入れる。
「それ、持つよ。不備はないだろ」
いつから立ち上がり、わたしが持とうとしていたビジネスバックを持つ。
始業前の時間で、まだ女子社員が業務前で廊下やオフィス玄関にいるから、黒崎さんと一緒に歩いているところを見られたくないんだ。
「….すみません。お手洗いに行きたいので、先に外で待っててくれませんか…」
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