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彼女が再び何かを尋ね、警棒を振り下ろす。男の足が不自然な方向に折れ曲がった。
情報を引き出すために、痛みを与える……これを、拷問というのではなかっただろうか。彼女はそれを、正当防衛の名のもとに容易くやってのける。
これを、こんなことを、認めてもいいのだろうか。本当に、これでいいのか……?
涙目で呻いた不審者の男は、先ほどからイヤイヤと頭を振っている。
私にはそれが、「一人で来た」という返答にも見えたし、「やめてくれ」という懇願にも見えた。
しかし、彼女は無慈悲を振り下ろすのをやめなかった。
ノドが潰れて話せない彼は明確に返答することはできない。情報が引き出せない限り、子どもたちを守るための正当な拷問は続く――。
私はいつしか耳を塞ぐのをやめ、極めて機械的に暴力を振るう彼女を正面から見据えていた。
鬼のようなその姿に、教育の未来、子どもたちの未来、そして自分の未来を見たような気がした。そしてそれは、決して許されざるもののように感じていた。
誰かが、変えなければならない――と。
「ああ、そういえばノドを潰したのでした。……これでは訊いても無駄ですよね」
照れたように彼女が笑う。「ハハ……」と周りの教員が愛想笑いを返した。
「先生方、校内を探索し、他に不審者がいないか警戒にあたってください。……ああ、武藤先生はここに残って」
「は、はいっ!!」
指示を受けた教員たちは解放されたハトのように、大慌てで目の前の惨劇から逃げ去った。
私一人が取り残され、呆然と立ち尽くす。
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