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血まみれの警棒を持った彼女が振り返った。
「私立高校がイヤでなければ、あなた、来年はこの学校を受験しなさいな。こんなご縁ですもの、きっと、悪いようにはなりませんよ」
ここで彼女が一度『打人鞭』を収縮させたのは、この会話を録音させないためだろうと、ずいぶん後になって気がついた。
怯え、震え、「はい」とも「いいえ」とも言えない私にうんうんと微笑むと、彼女は再び『打人鞭』を展開し、作業に戻った。
「逃げられては、生徒を危険にさらすことになりますね?」
幾分芝居がかった口調で言って、彼女は再び侵入者の右足を執拗に打ち砕く。
砕けた骨が皮膚を突き破り、血が飛び散った。
「ウゥゥ――!!」
男のくぐもった悲鳴が廊下に響き渡る。
彼女は、犯人が完全に移動能力を失うまで懲戒を加えるつもりらしかった。
私はその一部始終をこの目に焼き付けた。
これが、新しい時代なのかとうろたえた。
しばらくの後、「ふぅ」と腰に手を当てて、こちらを見た。
「さて、右足はこんなものでしょうか」
くるりとその警棒を回し、柄の方を私に向ける。そして、例によって『打人鞭』を収縮させると、
「来年、正規職員としてここで働く気があるなら、受け取りなさい」と言った。
いやいや、と目に涙を浮かべ、首を振る私に彼女は続けた。
「……どの道、これから教育は変わります、ここで武器を取れないなら、これからの教職はあなたにとっては辛いだけです。もう、あきらめなさい」
うろたえる私に、彼女は妖艶に微笑みかける。
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