ゼロ・トレランス

24/26
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
血まみれの警棒を持った彼女が振り返った。 「私立高校がイヤでなければ、あなた、来年はこの学校を受験しなさいな。こんなご縁ですもの、きっと、悪いようにはなりませんよ」 ここで彼女が一度『打人鞭』を収縮させたのは、この会話を録音させないためだろうと、ずいぶん後になって気がついた。 怯え、震え、「はい」とも「いいえ」とも言えない私にうんうんと微笑むと、彼女は再び『打人鞭』を展開し、作業(・・)に戻った。 「逃げられては、生徒を危険にさらすことになりますね?」 幾分芝居がかった口調で言って、彼女は再び侵入者の右足を執拗に打ち砕く。 砕けた骨が皮膚を突き破り、血が飛び散った。 「ウゥゥ――!!」 男のくぐもった悲鳴が廊下に響き渡る。 彼女は、犯人が完全に移動能力を失うまで懲戒を加えるつもりらしかった。 私はその一部始終をこの目に焼き付けた。 これが、新しい時代なのかとうろたえた。 しばらくの後、「ふぅ」と腰に手を当てて、こちらを見た。 「さて、右足(・・)()こんなものでしょうか」 くるりとその警棒を回し、柄の方を私に向ける。そして、例によって『打人鞭』を収縮させると、 「来年、正規職員としてここで働く気があるなら、受け取りなさい」と言った。 いやいや、と目に涙を浮かべ、首を振る私に彼女は続けた。 「……どの道、これから教育は変わります、ここで武器を取れないなら、これからの教職はあなたにとっては辛いだけです。もう、あきらめなさい」 うろたえる私に、彼女は妖艶に微笑みかける。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!