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砂浜に足を取られながら走った先には、僕より早くその場に屈んでいる影があった。 「すみませんっ」 陰に向かって叫ぶ。声で初めて気が付いたように、彼はこちらを見ながら立ち上がった。 男が立ち上がると目線が僕より二十センチは上にあり、思わず呆然と見上げていた。 海辺には不似合いなスーツを着込んでいた。 眼前に眼鏡が差し出されて僕ははっと我に返った。 「すみません、ありがとう」 礼を言うが、彼はじっとこちらを見つめたままその場を離れようとしなかった。鋭い眼光に睨まれているような気配に身が竦む。 口を開こうとしたのとほとんど同じタイミングで、斜め上から低い声が降ってきた。 「終わったか」 「え?」 顔を上げると、彼の灰色の瞳は僕の背後に向けられていた。その視線の先を追って理解する。 「ああ、はい、終わりました。もう大丈夫です」 そう答えたものの、僕が言い終わらないうちから彼はすでに背を向けていた。 「ハリー!」 口を開きかけて、自分を呼ぶ声にはっと振り返る。再び視線を戻すと、男はすでに警察の群れの中に紛れていた。
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