17人が本棚に入れています
本棚に追加
砂浜に足を取られながら走った先には、僕より早くその場に屈んでいる影があった。
「すみませんっ」
陰に向かって叫ぶ。声で初めて気が付いたように、彼はこちらを見ながら立ち上がった。
男が立ち上がると目線が僕より二十センチは上にあり、思わず呆然と見上げていた。
海辺には不似合いなスーツを着込んでいた。
眼前に眼鏡が差し出されて僕ははっと我に返った。
「すみません、ありがとう」
礼を言うが、彼はじっとこちらを見つめたままその場を離れようとしなかった。鋭い眼光に睨まれているような気配に身が竦む。
口を開こうとしたのとほとんど同じタイミングで、斜め上から低い声が降ってきた。
「終わったか」
「え?」
顔を上げると、彼の灰色の瞳は僕の背後に向けられていた。その視線の先を追って理解する。
「ああ、はい、終わりました。もう大丈夫です」
そう答えたものの、僕が言い終わらないうちから彼はすでに背を向けていた。
「ハリー!」
口を開きかけて、自分を呼ぶ声にはっと振り返る。再び視線を戻すと、男はすでに警察の群れの中に紛れていた。
最初のコメントを投稿しよう!