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『栄二、あなたたまにはウチに帰ってきなさい。もう何年帰ってきてないと思ってるの』
電話の向こう。
呆れたような、怒ったような母親の声に、俺は密かに溜め息を吐く。
「仕事が、忙しいんだよ」
もう切っていい? と訊いた俺に、母は「まだダメ!」と話しを続けた。
『仕事が忙しいって言ったって、お盆休みくらいあるでしょう。お仏壇にも少しは手を合わせなさい! ――ご先祖様をないがしろにするような、情けない子に育てた憶えはないわよ!』
延々と続く数年分の不満は、よくネタがあるなと感心する。
「わかったよ。今年はちゃんと帰るから」
『ほんと!?』
嬉しそうに聞き返してくる母親に、「ほんとほんと」とテレビのリモコンを手に取った。
「会社に希望出しとくよ」
『じゃあ8/12~16の間は必ず帰ってきてね』
テレビのチャンネルを変えながら、「あーはいはい」となおざりに返事する。
じゃ、そういうコトで。と電話を切れば、猫の『ノアル』が擦り寄ってきた。
黒いその体を抱き上げて、呟く。
「あ……お前連れてけないじゃん」
どうしようかなーと考えて、「ん?」と首を傾げた。
「そういや。8/12~16って、えらく具体的に言ってきたな」
眉間にしわを寄せた俺に、ノアルが「ミャー」と返事した。
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