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「誰かああああぁぁ!!」
「!?」
いきなり、後ろの丘の上の方で女の人の助けを求める声が聞こえた。さすがに放っておくわけにはいかないので、行ってみることにした。
「ちょ、ちょま、ちょっ、待って!話せばわかるから!ってこれ喋れないか!あああもう、とにかく放してええぇ!!」
そこには、おどろおどろしい何かに引っ張られ、地面に吸い込まれそうになっている女の人がいた。すると、その人はこちらに気付いて、
「あ!そこ!そこの人ー!ちょっと私引っ張り上げてくれない!?もう腕もげるくらい力強くやっちゃっていいから!」
と助けを求めた。さすがにこれを無視するほど俺は悪人じゃない。わかった、と答え、その人の腕を掴んだ。・・・もちろん、俺に彼女がいた経験なんてないので、母以外の女の人に触れることなんて初めてだ。だから自分のより細いその腕に少し驚きつつ、引っ張り上げた。
思ったより簡単に、その人の体は出てきた。地面の草花は、何事もなかったかのように静かに風に吹かれていた。
「はー・・・ありがとう!あのままあれに吸い込まれてたら、どこに連れてかれるかわからなかったよー。」
その人はブロンドのサイドテールを揺らし、エメラルドの瞳をこちらに向けながら俺に感謝の意を示した。
「あ、いえ・・・じゃあ、気をつけて・・・」
人助けができて良かった、と少し嬉しく思い、俺はその場を立ち去ろうとした。
「あっ!ちょちょちょっと!」
すると、その人は俺の腕を掴んで、真面目な顔で俺をじっと見つめた。
「なんですか・・・俺急いでるんで・・・」
人助けはしたが、面倒事に巻き込まれたくはないので、ありきたりな嘘をついて誤魔化そうとした。
でも、その人は諦めてはくれなかった。俺の腕を掴んだまま、ふう、と一呼吸置き、真っ直ぐ芯のある声でこう言った。
「私の失くしたもの、一緒に捜してくれない?」
これが、俺の日常を全部ぶっ壊す原因となった言葉だった。
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