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最悪の日
俺は独りだ。
いきなりで悪いが、少し聞いてほしい。
独り、といっても、数ヶ月前までは独りじゃなかった。
俺は両親と暮らしていた。帝国軍の軍人だった父と、仕立て屋を営んでいた母。今思えば、俺はとても良い両親の元に産まれたんだと思う。
・・・あの日、俺にとって人生最悪の一日になってしまった日。父が年に数回しかない休暇をもらえたので、俺たちは家族の時間をゆっくりと噛み締めていた。家族全員が次に揃ったときには、城下町の方まで出掛けよう、と約束をしていたので、帝国の首都、ボヌールという都市まで列車に乗って出掛けた。
城下町に着いてからは、父がいろいろな店を案内してくれた。ほとんどの日は城に泊まっていた父は、この近辺のことはとても詳しかったからだ。俺たちはそれぞれ欲しかったものを買った。
母は仕立てに使う布をたくさん買っていた。「質の良い物がたくさんあって迷っちゃう」と、目を輝かせながら嬉しそうに選んでいた母の姿を鮮明に覚えている。
俺は剣を買った。父から稽古をつけられていたから、剣の扱いは得意だった。武器も質の良い物がたくさんあって、さすが首都だなと思った。
父はいつでも来れるからと、遠慮して何も買わなかった。
そうして俺たちは買い物を楽しんで、帰りの列車に乗った。
この後起きることなんて、誰も予想していなかった。
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