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 ロコモは、一週間前に交通事故で死んでしまった。ユウタがロコモを見つけた、と連れてきたのは、つい三日ほど前、二度目の大雪が降った翌日のことだった。 「お母さん!ロコモが帰ってきたよ!」 「裏庭で跳ねてたんだ!」そう無邪気に、嬉しそうに喜ぶ息子と、その横でじっとこちらを見つめていた濁った眼を思い出し、ゾクッと心を震わせる。  床拭きを済まし、洗い物を終えたら、テレビを見るためソファに座る。  その時ふと足元を見ると、何か光るものが落ちていることに気付いた。それは私たちの結婚指輪だった。  当然私のものではない。私の指輪は今でも左手の薬指にしっかりと収まっている。本当は捨ててしまいたかったが、近所に勘繰られるのが嫌だった。……ということは、これはあの人のか。  クリスマスやユウタの誕生日も、プレゼントを渡しに少し帰ってくるだけで、すぐに仕事だ、と出ていってしまっていたあの人。帰ってきた時、無造作に服を脱いでいた。その時に取れてしまったのだろう。  あの日も、呼吸一つにすら顔をしかめたくなるほどの酒気を纏わせておきながら、不機嫌そうな表情をしていた。ユウタのために早く帰ってきて、と言ったのに、そんな酒の匂いと共に戻ってきたのは、ユウタが寝てしまった後だった。  あの人がこの家でくつろいでいる記憶など、もうほとんどなくなりかけていた。思い出すのは、ユウタの誕生日の夜の言い合いだ。 ――せめて誕生日くらいは一日一緒にいてあげたらどうなの!ユウタが可哀そうよ! ――そうやってすぐ子供を盾にする、そういうところが気に食わないんだ!大体お前達に不自由なく暮らさせるためにオレがどれだけ頑張っていると……。 ――お酒飲んで帰ってくるのが頑張ることなの?自分の子の誕生日を祝うことより大事なことだっていうの? ――もういい!お前の金切り声を聞いているとウンザリする!それよりさっさと風呂の支度をしてくれ!  そこまで思い出して我に返る。そう言えば、風呂掃除をまだしていなかった。……だが、すぐにその考えはなくなる。湯船にはしばらく入りたくはなかった。
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