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テレビを見ていると、外でユウタの笑い声が聞こえてくる。跳ねる音こそ聞こえないが、窓を覗くと、雪景色に紛れて動く、ロコモの姿があった。はしゃぎまわるユウタを追いかけ、まるで兎のようにぴょんぴょんと跳ねながら……その顔だけはずっと、窓から様子を伺う私の方を向いていた。
「……っ!」
慌てて目をそらす。視線をテレビの方へひたすらに向けるが、窓から見つめたあの不気味な顔がいつまでも目の前に焼き付いている。やがて廊下でより近くから見つめていた顔もチラチラと現れてくれば、それらは頭の中で混ざり合い……。一週間前のロコモの顔として、私の頭の中に現れた。
まっすぐに私を見つめる、真っ黒な目。
ユウタやあの人には常に尻尾を振っていたくせに、私には撫でさせようともしてこなかった。それなのに、毎日の散歩も、餌の世話も、やるのは全部私だった。愛情なんて、微塵も沸いては来なかった。
一週間前の朝、久しぶりの夜更かしのせいで寝坊と寝不足に苛立つ中の散歩。
……何かあったわけではなかった。横で平然とあくびをしていたロコモに苛立ちはしたが、それだけだった。死んでしまえばいいのに、なんて思ってもいなかった。
ロコモはじっと見つめていた。トラックのクラクションがけたたましく鳴っているのに、ブレーキの耳障りな音が響いているのに、それらをまるで無いものであるかのように無視して、轢かれてしまうその瞬間まで、私を見ていた。
ロコモを抱きかかえ、赤信号をいいことに突っ込んでくるトラックの方へと放り投げた私を、おそらくは笑みを浮かべていただろう私を、投げられ、トラックにぶつかるまでの数瞬の空中で。
今と同じように、じっと、見つめていた。
よたよたと立ち上がる。テレビの時間は終わりだ。夕食の支度の続きをしなくては。
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