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 窓の向こうから、ユウタの泣き声が聞こえる。ちらりと顔を向けてみると、どうやら勢いづいて走りすぎ、盛大にこけてしまったらしい。ちょっと痛かっただけ、と言った泣き方だ。すぐに泣き止んでまた遊び始めるだろう。  思わず頬をほころばせたくなるが、それより先に、少し前の記憶が呼び覚まされる。  あの日の泣き声に、微笑を返すことは出来なかった。ロコモが死んだ日とその翌日。  父親に誕生日に会えず、最高の友人も失ったユウタは、喪失感のままに大声で泣いた。だが私には、どうしてもその泣き声に同調することは出来なかった。 ――うるさい、うるさい、うるさい!泣いてもしょうがないでしょう!  あの一人と一匹へ心を注ぐことを諦めた私には、彼らを惜しむ泣き声は不快でしかなかった。唯一、自分が愛を注いでいると感じられた相手にさえ、苛立ちを覚えてしまうほどに。 ――もう知らない、ならずっとそこで泣いていればいいわ!  今季初の大雪の中、ロコモの遺体を抱え、ココに埋めたい、と言って裏庭から動こうとしないユウタをなだめ、なだめ、なだめすかし、それでもこちらの言葉にわめくことでしか返さなくなってきた息子と、身体を苛む雪の冷たさに、心は限界を迎えていた。  ……私は、ユウタを愛している。本当だ。だから本当に、心の底からそんなことを思ったわけじゃない。単なる一時の気の迷いだ。ロコモがあっさりと死んでしまった直後で、心が不安定でさえなければ、あの場に大型のスコップなんてなければ、それを掴んで、ユウタの頭めがけて振りかぶったりなんて、絶対にしなかった。今ならそう言い切れる。  ユウタとロコモは、日が陰るころには自分から帰ってきた。よほど激しく転げまわったのか、脱いだ帽子やマフラーは、溶けた雪でびしょびしょになっていた。
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