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「ママ、ただいま、ご飯もうできたー?」  無邪気に問いかける声は、テーブルに並べられた料理ですぐに歓喜のモノへと変わる。  これは罰だ。今のこの状況は、私へ向けられた罰なのだ。  事ここに至り、ようやくそう受け入れることが出来た。ロコモの視線にはまだ恐怖を感じるが、それも、拒絶してはいけないものだ。 「いただきまーす!」  ユウタの声が居間から聞こえてきて、心の中で、召し上がれ、と返す。  その足元では、ロコモがじっと座り込んでいる。目の前の餌の盛り付けられた皿に顔を埋めるけれど、口がなければそれを取り込めるはずもなく、ただ小枝のヒゲと、雪の鼻が餌に押し付けられているだけ、という光景になっていた。  ふと見ると、昼間の晴天が嘘のように、また大雪が降っていた。これで三度目だ。  この大雪の度に、我が家には雪だるまが増えていく。裏庭にある死体の意思を受け継いで、ゆっくりと家の中で溶けながら、かつてと同じ暮らしを続けていく。  これは罰だ。家族へ無償の愛を捧げることを忘れてしまった私へ、神が下した罰なのだ。  雪だるまは温かくなれば溶けて消える。それまで、私は彼らに、今度こそ無償の愛を注いでやらなくてはならない。彼らの全てを、受け入れてやらねばならない。  雪はさらに激しくなる。おそらく翌朝には、あの夫が雪だるまになって裏庭に立っていることだろう。我が家に戻ってきた時、何をするだろうか。なにも気付かずに新聞でも読みだすのだろうか。そのまま仕事へ行こうとしたりするのではないだろうか。  ロコモが死んだ前の夜、酔っ払ったまま湯船に沈められ、溺死させられたことは覚えているのだろうか。ひょっとしたら、そのまま裏庭に埋められたことも思い出して、私へ怒りと憎しみを向けるかもしれない。だとしても、私はそれを受け入れねばなるまい。  そこまで考えて、また一つ思い出した。雪だるまとなったあの人は、最初にあれを見てどう思うのだろう?  スコップを振りかぶり、その勢いのまま雪で滑ってひっくり返り、花壇に頭をぶつけて、あっさりと死んでしまった私の間抜けな姿を見て、少しは慌てたりするだろうか。  そんな様子を思い浮かべたところでふと、自分が笑った気がした。だが頬に触れても、小枝の手の先に引っかかった雪がトサリと削れて落ちるだけで、窓に映る自分は、やはり不細工に雪玉を積み上げて作られた、雪だるまの姿のままだった。
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