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 雪だるまが一つできていた。誰が作ったのだろうか、向かいの家の前にあるそれは、西瓜程度の大きさの雪玉が二つ重なっただけの簡素なものだ。目と口に使われているのは、そこらに落ちていた石ころだろうか。  台所の窓から見えるそれは、昼の日差しですでに溶けかけており、とても春まで持つようには見えない。  その在り方に、すこし同情する。冬の間しか存在することのできない儚いもの。あの雪だるまは、もし自由に動くことが出来たのなら、わずかな命で、その脆い身体を使い、いったい何をするのだろう。  そんなことを考えていると、玄関のドアが開き、次いで、先ほどまで外で遊んでいた、ユウタの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。パシャパシャと水音の混ざる足音。雪の中を、よほどはしゃいで駆け回ったのだろう。 そのまま台所へ入ってくれば、包丁を持っていた手を止める。ついこの間8歳になったばかりの息子は、足元に溜まる水たまりも気にせずに、 「ママ、ロコモと外で遊んできてもいい?」 と訊いてきた。  ここ数日続いた雪は一時的に晴れていて、外は綺麗な蒼空と、太陽を反射する雪景色で覆われていた。
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