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しかしベンチに戻り、レガースとプロテクターを着け直している背後に、投手の真田東馬が近づいてきた時、その既視感は再びやってきた。すれ違いざまに彼が何を言うのかがわかったのだ。
『なに、一点あれば十分さ、三田村』
「なに、一点あれば十分っすよ、三田村さん」
耳の奥に甦った声に呆然とした私を尻目に、真田は駆け足でマウンドへと向かって行った。私は守備に散ったナインのいないベンチを振り返り、監督の青島と目を合わせた。彼も既に気づいていたようで、ただでさえ気難しそうな渋面をいっそう顰めて頷いてくる。
そうか、あの試合だ。十二年前の、やはり開幕戦。初回のホームランによる一点、その後チャンスを作りながらの無得点。それもあの試合とそっくりだった。
「どうも嫌なことを思い出すな」
青島は私に近づいて、低い声で言った。私はそれに同意はせずに、マスクを拾い上げてグラウンドに戻って行った。
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