オープニングゲーム

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 それは私がまだプロ三年目、二十一歳のシーズンだった。二年目まで一軍での出場試合が十にも満たなかった私が、はじめて開幕スタメンに抜擢された忘れられない年のオープニングゲームだ。相手も同じ東京フライヤーズ。球場もこの明治スタジアムだった。マウンドに上がったのは、入団以来憧れてやまなかったチームのエース、城内京一郎。最多勝三回、沢村賞にも二回選ばれた、日本球界を代表するピッチャーである。開幕投手も五年連続。しかしその彼も、すでに三十八歳を迎えていた。 『開幕戦と言ったって、ちょっと客が多いだけでいつもと同じだ。意識するな』  城内はそう言って、プロテクター越しに私の胸を小突いた。  前年の秋、肩の故障から復帰した彼がファームで調整していたときに、球を受けていたのが私だった。その際私の何を見込んでくれたのかはわからないが、春のキャンプでもずいぶんと目を掛けてもらい、それがこの開幕一軍にも繋がっていた。いわば私にとって恩人とも言うべき存在である。その城内が、私に向かって言ったのだ。 『配球は全部おまえに任せる。いいか、気持ちで負けるんじゃないぞ。強気で行け』  その頃の私のリードなど、セオリーに忠実と言えば聞こえはいいが、一本調子の芸のないものにすぎなかった。しかしそんな私の出すどんなサインやコースの指示にも、城内は首を振る事なく投げ込んできた。それでも決して打たせはしないだけの球の勢いが、その日の城内にはあった。  まさに火の出るようなボールが私のミットを鳴らし続け、回を追う毎に三振と凡打の山を築いてゆく。初回の不運なエラー以外にはひとりのランナーも出すことなく、回はついに最終回を迎えた。
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