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【プロローグ】鬼女伝説
日本全国に古くから伝わる伝説というものが数多く存在する。しかし科学が発達した現代では、そういったものは単なる作り話だと誰もが思っている。
でもそれらの伝説は、全て架空の話ばかりなのだろうか。
古の都があった奈良県。その中心部から離れた所に、深い山々に囲まれた吉野という田舎町がある。山深いその地方は、何の変哲も特徴もない。
──が、そこには一風変わった伝承が残っている。
それは、人の生き血を啜る女の伝説。
地元の人間から「鬼女」として恐れられたその伝説の主は、決まって男の血を、それも愛した男の血を啜るのだという。
愛する男の血を求める、悲しい女の古い伝承。しかしそれを知る者はすでに少なく、またその起源も定かではない。
ただ、それだけのことだ。
取りたてて知っている必要もない、それだけのこと。歴史に埋もれるはずの、ただの昔話。
そう、それだけのこと
──だったのだ。
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