【プロローグ】鬼女伝説

1/1
34人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ

【プロローグ】鬼女伝説

 日本全国に古くから伝わる伝説というものが数多く存在する。しかし科学が発達した現代では、そういったものは単なる作り話だと誰もが思っている。  でもそれらの伝説は、全て架空の話ばかりなのだろうか。  (いにしえ)の都があった奈良県。その中心部から離れた所に、深い山々に囲まれた吉野という田舎町がある。山深いその地方は、何の変哲も特徴もない。  ──が、そこには一風変わった伝承が残っている。  それは、人の生き血を啜る女の伝説。  地元の人間から「鬼女(きじょ)」として恐れられたその伝説の主は、決まって男の血を、それも愛した男の血を啜るのだという。  愛する男の血を求める、悲しい女の古い伝承。しかしそれを知る者はすでに少なく、またその起源も定かではない。  ただ、それだけのことだ。  取りたてて知っている必要もない、それだけのこと。歴史に埋もれるはずの、ただの昔話。  そう、それだけのこと  ──だったのだ。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!