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哲夫は鞄を肩から下ろすと、椅子を引いて腰かけた。
同時に前の扉がガラガラと鳴って、担任の黒ぶちが入ってきた。
今どきのデザインではない、昔ながらのいかにも教師っぽい四角い黒ぶち眼鏡と、よれよれのスーツ。
京都大学を出たことをいつも自慢して、鼻につくヤツ。それが担任教師の黒ぶち。
黒ぶちは教壇の前に立つと、「え~皆さん、今日は転校生を紹介します」と粘っこい声を発した。
「うぉぉ、転校生はウチのクラスに来るんだぁ!」
哲夫がうきうきとした嬉しそうな声を出す。
黒ぶちは、首を捻ってすぐ横に視線を向けた。
クラス中の皆が黒ぶちの視線の先を追ったが、誰もいない。
黒ぶちはぽかんと口を開けている。
おいおい、夏休み明け初日から、教師が大ボケかますのか。
「おーい、岸小路 愛くん! 早く入ってきなさいよ」
黒ぶちは、開けっ放しの扉に向かって叫んだ。どうやら転校生は、恥ずかしがり屋のようで、まだ廊下にいるらしい。
静寂に包まれる中、皆の視線が、扉に集まる。クラスメイト達がごくりとつばを飲む音が聞こえてきそうだった。
いったいどんな美人さんが現れるのか?
哲夫の話は眉唾だと思いながらも、タケルも扉を凝視した。
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