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 今日という日は人によっては心躍る一日となるだろうし、またある人にとっては鬱屈とした一日となることだろう。  (とばり)ハジメはどちらかと言えば後者の部類であった。否。どちらかといえば、ではない。完全に、100%、まごうことなく、だ。  その日バイト先の冴えない先輩である岡嶋は、薄くなった頭を揺らしながら不満を垂れ流していた。  「俺達が毎年この日にこんな気分になるのは、決して俺らの責任ではないと思うわけよ」  「はあ」  「だってそうだろ?何処かの誰かが勝手にこんな愛のイベントを創りあげたがために、今日誰からも何ももらえないということがこんなに悲しいことになるわけよ。そもそもこんなイベントがなければ、普段となんら変わらない気分で過ごせるはずだろ?」  普段と変わらない気分が、良いものなのかはわからないなと思いつつも帳は相槌を打つ。  「まあ、そうかもしれませんね」  「だから、俺は」岡嶋は高らかに宣言する。  「この責任を追及する」  立ち上がる岡嶋を見上げ、帳は問う。  「誰にですか?」  「こんな世の中にした国に、だ」  それはまた大きく出たものだ。  「だって、そうだろ。この世の中で起きてることはだな、俺ら一人一人の責任であることなんかほとんどないわけよ」  「いや、さすがにそれは言い過ぎでしょう」  「いいや、そうだ」  そもそもだ、と岡嶋は続ける。  「この国でもとうとう戦争が始まるかどうかという問題が起きている今、バレンタインデーなんかにうつつを抜かしている場合じゃないわけよ。そんで、その戦争だって本当に始まるなら、それはもう俺らみたいな小さな存在とはかけ離れた、それこそ国とかの責任なわけよ」  「戦争なんてどうせ実際は起きないですよ。この国では」  話がどんどん大きくなってきているが、要はモテない現状に不満が溜まっているにすぎないのだろう。唾を飛ばしながら熱弁する先輩を見上げ、帳はそう思っていた。  とはいえ、何に対しても自分の責任とは思えないことだけは帳も同感だった。
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