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「・・・・・・」
数秒待ってはみたものの、一向に何も起きそうにない。
「なんなんだよ、ホント」
全てが虚しくなってしまった帳は、箱を床に放り投げると、ベッドに横たわり、なんとなくテレビをつけた。
夕方のニュース番組が映し出され、レポーターの声が聞こえてくる。画面に目をやると、どうやらバレンタイン特集の1コーナーのようで、街頭インタビューが行われていた。
道行く女性が、どのような相手にプレゼントするのかを答えている。彼氏に、片思いの相手に、会社の皆に、本命や義理など違いはあれどどの女性もどこか楽しそうに見えた。
スタジオのメインキャスターが問いかける。
『でも、今ではチョコレートじゃないんですよね?』
『そうなんです。今はどの女性もこちらを渡しているんです』
わざとらしい掛け合いの後、インタビュアーの女性が何かを取り出す。
「ん?」
帳はガバッと体を起こすと、テレビに釘付けになった。そこに映し出されていたのは紛れもなく、今部屋に転がっているのと同じスイッチだった。
『こちらのスイッチ。これが今チョコレートに替わり、バレンタインデーに贈られるものとなったんですねー』
え?え?どういうこと?
『今やバレンタインデーに渡すものの主流といえば、このスイッチですね。女性が愛を込めて贈ったスイッチを男性が受け取り押す、というのが2月14日の風習となりつつありますねー』
「・・・いや、どんな風習!?」
なんということだ。自分がバレンタインデーという文化とあまりにかけ離れたとこで生きてきたがために、こんな変化が起きていたことすら全く知らなかった。
そういえば、節分の恵方巻なんかも知らないうちにお決まりみたいになってたもんな、などと半ば無理矢理とは思える納得を自らに強いた。
「ちょっと待てよ。ということは・・・?」
床に転がるスイッチを見る。
この贈り物は―――、あの女性は―――。
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